2023年10月4日
プリント基板(PCB)の露光用途における水銀ランプの代替技術
RoHS指令の適用除外リストにおいて項目4(f)に分類されているその他水銀ランプを使用する用途には、今までにご紹介いたしました硬化、液晶ディスプレイ製造向けの露光の他に、半導体の製造向け露光、プリント基板(PCB)製造向けの露光も主な使用用途として挙げられます。
露光とは、レジストを塗布した基板に光や電子ビームなどを照射することによって設計された回路を描くリソグラフィーのことであり、光源としては、主にショートアーク水銀ランプが使用されてきました。
ショートアーク水銀ランプには、環境汚染物質である水銀が含まれており、LEDやレーザーダイオード(LD)などの固体光源が代替技術として期待されています。
しかしながら、RoHSの現在の適用除外が検討された当時、ショートアーク水銀ランプと同等の露光に必要な出力をLEDやLDで出すことは簡単ではなく、代替技術は存在しないとの判断から、RoHS指令においても少なくとも2027年2月24日まで適用除外とされています。
ショートアーク水銀ランプには、水銀を含んでいること以外にも、露光用途で使用する際に実用上の様々な問題があります。まず、スイッチをonにしてから点灯するまでに数分を要するため、on/off駆動することができず露光装置が稼働している間は常時点灯が必要なうえに、安定性に欠け光のゆらぎが生じて、露光プロセスに影響を与えることがあります。さらに、1000時間程度が寿命とされており、寿命を超えて使用した場合ランプが破損する可能性があり水銀曝露の危険性があるため、通常2,3カ月程度で交換をする必要があります。
LEDやLDは脱水銀だけでなく、これらの問題を一気に解決できる代替技術として期待されているのです。
露光用途におけるショートアーク水銀ランプ→LDでの代替の実例
冒頭でご説明いたしましたように、ショートアーク水銀ランプを使用した露光が行われている例としては、半導体の製造やプリント基板(PCB)製造向けなどいくつか挙げられますが、今回は、プリント基板(PCB)製造向けの露光におけるLDでの代替の実例をご紹介いたします。
プリント基板(PCB)向け露光装置には、ステッパーを用いるもの(以下、ステッパー)と、ダイレクトイメージング露光の技術を用いるもの(以下、DI)の2種類があります。
ステッパーは、特定のパターンを生成するためのフォトマスクを使用し、光源からの光がフォトマスクを介して基板に投射され、微細なパターンをプリント基板に転写するための装置です。
一方、DIは、フォトマスクを使用せず、レンズ調整によりレーザーの照射場所を決め、直接光学的な露光を行うことで、基板上にパターンを形成します。フォトマスクの設計や製造にかかる時間とコストを削減し、非常に高速で露光できるなどの特徴があります。
ステッパーとDIの光学系構成
これら2種類の露光装置のうち、ステッパーの光源には、解像度などの点でショートアーク水銀ランプに一日の長があるところもあり、今でもほとんどの場合ショートアーク水銀ランプが使われていますが、DIの光源には、紫色の波長である405nm発光のバイオレットレーザーダイオード(Violet LD)の採用が広がっています。405nm発光のViolet LDは2000年前後から一部で採用が始まりましたが、この20年で出力が当初の20倍と大幅に改良され、生産性の向上と使いやすさやその他の多くのメリットも相まって、今では、少なくともDIの光源においては、ショートアーク水銀ランプに代わって主要な光源となりました。
Violet LDがステッパーの光源も含め全てのPCB露光装置において主要な光源となるためには、組み合わせる光学系も合わせてもう一段の改良が必要ですが、今回は、既にほとんどのケースでViolet LDが採用されているDIにおけるLDでの代替の実例をご紹介いたします。
【ショートアーク水銀ランプとバイオレットレーザーダイオード(Violet LD)の比較結果】
- ※ この表はDIを用いたプリント基板(PCB)の露光にショートアーク水銀ランプとViolet LDを使用した場合の比較結果です。
- ※ CO2排出量0.527t/MWhは四国電力(株)が発表した2021年度のCO2排出係数です。
Violet LDを光源にした場合、ショートアーク水銀ランプの場合と比較してはるかに少ない投入電力で同等の露光が実現できるため、脱水銀という所期の目的を果たすだけでなく、電力消費量、CO2排出量を削減することができます。同等の露光を行うために必要な投入電力は、標準的な露光装置一台分のショートアーク水銀ランプがおおよそ1000WであるところViolet LDでは300Wになります。どちらも24時間340日間稼働させると仮定しますと、ショートアーク水銀ランプの電力消費量は年間8.2MWh、一方Violet LDは2.4MWhとなり、Violet LDがon/off可能であることを加味せずとも70%削減することができます。CO2排出量におきましても、電力消費1MWhあたり0.527tのCO2排出量ということをもとに計算しますと、水銀ランプは4.3tのCO2排出量ですが、Violet LDは1.3tとなり、同じく70%削減することができるのです。
さらに、Violet LDはショートアーク水銀ランプより40倍程度寿命が長いとされているので交換頻度を減らすこともできます。
脱水銀以外にもViolet LDで置き換えるメリットは多くあるのです。
まとめ
現在のRoHSの適用除外が検討された数年前においてはショートアーク水銀ランプに替わる代替技術が無いと認識されていた露光用途の光源において、前回ご紹介した液晶ディスプレイの露光用途のUV-LEDに加えて、プリント基板(PCB)の露光用途ではViolet LDという別の固体光源技術も、近年の急速な技術進歩によって、代替技術として成り立つばかりか、消費電力やCO2削減など大きなメリットをもたらすことがはっきりと認識され、実際に製造装置として導入されている例をご紹介することができました。
当社は、今後さらにLED、LDの性能を向上させることや、それぞれの特徴を生かした有効な利用方法を工夫することで、今はまだ水銀ランプが主要な光源として使用されている、半導体やプリント基板(PCB)のステッパー露光などにおいても、置き換えが進み、すべての露光分野において、現在水銀ランプに認められているRoHS規制の適用除外の延長が必要なくなるものと信じております。
当社は引き続き、全ての水銀ランプ撤廃による水銀フリー社会、脱炭素社会の実現を目指してまいります。
レーザーダイオード(LD)の詳しい情報はこちら