2023年8月25日
露光用途におけるショートアーク水銀ランプの代替技術
RoHS指令の適用除外リストにおいて項目4(f)に分類されているその他の水銀ランプの主な用途には、前回ご紹介いたしました「硬化」の他にも、液晶ディスプレイや半導体の製造向け、プリント基板(PCB)製造向けなどの「露光」が挙げられます。
露光とは、レジストを塗布した基板に光や電子ビームなどを照射することによって設計された回路を描くリソグラフィーのことであり、光源としては、主にショートアーク水銀ランプが使用されています。
ショートアーク水銀ランプには、環境汚染物質である水銀が含まれており、LEDが代替技術として期待されています。しかしながら、ショートアーク水銀ランプと同等の露光に必要な放射束をLEDで出すことは簡単ではなく、代替技術は存在しないとの判断から、RoHS指令においても少なくとも2027年2月24日まで適用除外とされています。
ショートアーク水銀ランプには、水銀を含んでいること以外にも、露光用途で使用する際に実用上の様々な問題があります。まず、スイッチをonにしてから点灯するまでに数分を要するため、on/off駆動することができず露光装置が稼働している間は常時つけっぱなしにする必要があります。さらに、1000時間程度が寿命とされており、寿命を超えて使用した場合ランプが破損する可能性があり水銀曝露の危険性があるため、通常2,3カ月程度で交換をする必要があります。また、点灯させるために過電流を流し、その後安定電流に下げて電流をかけ続けるという特殊な電源制御をする必要があり、そのために安定器が必要となります。
LEDは脱水銀だけでなく、これらの問題を一気に解決できる代替技術として期待されているのです。
露光用途におけるショートアーク水銀ランプ→LED化の実例
冒頭でご説明いたしましたように、ショートアーク水銀ランプを使用した露光が行われている例としては、半導体の製造やプリント基板(PCB)製造向けなどいくつか挙げられますが、今回は液晶ディスプレイの露光におけるLED化の実例をご紹介いたします。
液晶ディスプレイの製造工程では、光源から出た紫外線を光学系で広げ、大面積の対象物を露光します。その際、対象物の大きさに合わせて光学系を設計するため、光源の大きさはある程度決められてしまいます。その範囲内にUV LEDを配列するのですが、以前のUV LEDでは配列できるLEDの個数では放射束が足りませんでした。しかしながら、近年UV LEDの発光効率が劇的に向上したことで、同じ個数でも対象物を露光するのに必要な放射束を満たせるようになり、ショートアーク水銀ランプ同等に露光できるようになりました。また、発光効率が上がったことで放熱設計の問題も解消され、他の用途に先駆けてのLED化、製造現場への導入が実現されています。
【ショートアーク水銀ランプとLEDの比較結果】
- ※ この表は液晶ディスプレイの露光にショートアーク水銀ランプとLEDを使用した場合の比較結果です。
- ※ LEDの発光効率は当社UV LED 333B-D4を用いて当社が測定したものです。
- ※ CO2排出量0.527t/MWhは四国電力(株)が発表した2021年度のCO2排出係数です。
また、代替技術として同等の露光を実現することで脱水銀という所期の目的を果たすだけでなく、LEDの発光効率がショートアーク水銀ランプを大きく上回っているため、電力消費量、CO2排出量を削減することができます。同等の露光を行うために必要な投入電力は、標準的な露光装置一台分のショートアーク水銀ランプがおよそ50kWであるところLEDでは7kWであり、どちらも24時間340日稼働させると仮定しますと、ショートアーク水銀ランプの電力消費量は年間408MWh、一方LEDは57.1MWhとなり、LEDがon/off可能であることを加味せずとも86%削減することができます。CO2排出量におきましても、電力消費1MWhあたり0.527tのCO2排出量ということをもとに計算しますと、ショートアーク水銀ランプは215tのCO2排出量ですが、LEDは30.1tとなり、同じく86%削減することができるのです。
さらに、LEDは電気応答性が良好なため安定器が不要となり、投入電力も減るため電源の小型化が可能です。加えて、LEDはショートアーク水銀ランプより5倍~10倍程度寿命が長いとされているので交換頻度を減らすこともできます。
脱水銀以外にもLEDに置き換えるメリットは多くあるのです。
まとめ
現在のRoHSの適用除外が検討された数年前においてはショートアーク水銀ランプに替わる代替技術が無いと認識されていた露光用途の紫外線光源において、その後のUV LEDの急速な技術進歩によって、LEDが代替技術として成り立つばかりか、消費電力やCO2削減などLED化によって大きなメリットが得られることがはっきりと認識され、実際に製造現場に導入されている例をご紹介することができました。
当社は、今後更にUV LEDの性能を向上させることや有効な利用方法を工夫することで、すべての露光分野において、現在水銀ランプに認められているRoHS規制の適用除外の延長が必要なくなるものと信じております。
当社は引き続き、全ての水銀ランプ撤廃による水銀フリー社会、脱炭素社会の実現を目指してまいります。
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