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高輝度青色LED発売30周年

2023年8月31日

青色LEDで変わったもの(信号・ディスプレイ・スキャナー)


全くの新技術を世に出すにあたっては、乗り越えないといけない3つの障壁があると言われています。それぞれ、魔の川・死の谷・ダーウィンの海と呼ばれるものです。
それぞれの詳細な説明は経営学等の専門の文献にお譲りしますが、魔の川と呼ばれる製品開発には成功、死の谷と呼ばれる社内での事業化についても関係者の尽力により量産化への目途もつき順調。残るはダーウィンの海と呼ばれる市場の形成ですが、当社の高輝度青色LEDは、全く新しいものではありましたが、「LED」という観点では既に市場が形成されており、「青色」という欠けたパズルのピースを埋める事で得られる3つの市場の需要があらかじめ見えていました。

一つ目が、道路の交通信号です。ご存知の通り、通常、交通信号は赤・黄・青の3色で構成されています。しかしながら、交通信号において「青色」と言われている色はいわゆる「青」ではなく「青緑」と呼ばれるもので、当社が1993年に発表した青色LEDでは信号機に必要な青緑色に適合しませんでした。それにもかかわらず、青色発表時に真っ先に問い合わせを頂いた方の中には、警察官庁関係の方がいらっしゃいました。都市部の信号機の中には交通の制御をほぼ矢印信号だけで行っているものがあり、その矢印信号の電球が切れたことで大渋滞を引き起こしたのが問い合わせのきっかけだ、との事でした。この事例からもわかるように、電球のようにいきなり切れたりすることが無く、一度設置すれば10年間は交換が不要という長寿命、加えて発熱が少なく消費電力が低いという特性からも、維持費の低減が期待されたため、交通信号での需要が高いのは見えていたのです。(ちなみに、翌94年に信号機向けの青緑色LEDが開発され、それを使った日本初の三灯式LED信号機は2023年現在も徳島県警察本部の前で元気に稼働しています。10年はおろか来年には稼働30年を迎えます。)

図1:徳島県徳島市万代町に設置されている日本初のLED式交通信号

二つ目がディスプレイ(大型映像表示装置)です。一般的にテレビやプロジェクターなどは、光の3原色と呼ばれる赤・緑・青の光の加減で色の出し方をコントロールしますが、赤・緑(厳密には黄緑)のLEDは既に市場にありましたので、青色があればすべての色を再現できる様になります。この時、期待されたのは、家庭用のテレビ(当時はブラウン管TVが主流)向けではなく、大きなスタジアムで設置された大型映像装置やスコアボードの置換用途。当時の大型映像装置はブラウン管方式と蛍光管方式がありましたが、共に高価で重く、修理も大変で容易に設置できるものではありませんでした。また、スコアボードは赤や橙のLEDを使用しているものか、白熱電球型、または看板を手で置き換えると言った様なもので、とても映像を出せるようなものではありませんでした。それに対してLEDでは、フルカラー表示が可能で、1つ1つのLEDパッケージを基板上に載せていき、モジュールと呼ばれる16x16ドットや32x32ドットと言った単位に分割をしたものを自由に組み合わせる事ができ、大きさの制限が無く、軽く、また明るさも太陽の下でも画像が視認できるものであったため、常設型だけでなく、可搬型なども実現され、需要が大きいことが想定できていました。

図2:LEDドットマトリクスディスプレイモジュール

三つ目がスキャナー用光源です。本や書類をデジタルデータ化するためのイメージスキャナーですが、その光源には直径数ミリの蛍光灯の一種である白色のCCFL(冷陰極管)が使われていました。CCFLの場合、センサーと光学系を組み合わせた際に本体が大きいという欠点がありました。この光源部をLED化し、これまでと異なるセンサーと組み合わせ、赤・緑・青のLEDを高速で個別に照射し、反射された光を直接読み込む事で、従来方式でできなかった小型・薄型化を実現し、持ち運び容易なスキャナーという新しい市場を作り出すことができるのが見えていました。

図3:スキャナーモジュール(イメージであり実物ではありません)

ご紹介した3つの用途においては、現在では当たり前の様にLEDが搭載されています。信号機は、都道府県によっては100%LED化が達成されていますし、ディスプレイは至る所で広告や情報を表示しています。スキャナーも、現在ではほぼ全てLED光源が搭載されています。

この様に欠けたパズルのピースである「青色」の出現で動き始めた3つの潜在市場ですが、本格的に拡大していくにあたっては、青色に加えて、上述の信号機用の青緑色、また95年に開発・上市された世界初の緑色の貢献が欠かせませんでした。当時使われていた緑色は深い緑ではなく黄緑色で、これに従来の赤色と当社が発売した青色を組み合わせた製品は、画像品質や明るさが十分でないために少量の生産に留まり、95年に緑色が完成したことによって、初めて本格的な市場拡大への道筋がはっきりと示されたのです。また、緑色に適用された新しい技術が青色にも適用され、明るさ・信頼性共に大きく向上し、更なる市場の拡大へつながっていく事となったことも付け加えておきたいと思います。

こうして赤・緑・青の3色が揃った事によって、冒頭に記載の「ダーウィンの海」は乗り越えられ、フルカラーLEDの市場は成長していったのです。

図4:当時の青色と純緑色のLEDカタログ