2023年5月31日
殺菌灯(低圧水銀ランプ)の代替技術
1901年に紫外線による殺菌効果が発見されてから今日に至るまで、紫外線による殺菌には主に低圧水銀ランプが使用されてきました。
低圧水銀ランプは水銀を含み、環境汚染の懸念があるため、蛍光灯の場合と同様に代替技術としてLEDが期待されています。しかしながら、低圧水銀ランプと比較すると、UV-LEDの発光効率は、年々改善されてはいますがまだ十分なものと言えず、特殊用途の低圧水銀ランプについては、代替技術が確立していないということでRoHS指令でも2027年2月24日まで適用除外(項目4(a))とされています。2027年以降も、代替技術がないと判断されればその適用除外が延長されることとなりますが、本当に延長は必要でしょうか?
当社は、LEDでの代替は現時点で既に一部の用途で可能となっており、近い将来ほぼすべての用途で可能になると考えております。
今回は、殺菌用途で低圧水銀ランプからUV-LEDへの置換が検討されている実例についてご紹介いたします。
表面殺菌における低圧水銀ランプ → LED化の検討例
低圧水銀ランプを使った紫外線での殺菌の分野には、上下水道などを殺菌する水殺菌、空気清浄機にも取り入れられている空気殺菌、そして今回ご紹介する表面殺菌があり、表面殺菌の代表例の一つとして、食品業界における容器や機器の殺菌が挙げられます。食品製造工場では、食品への菌の混入や増殖を防ぐため、食品容器に紫外線を照射し容器内部を殺菌した後に食品が充填されています。
【食品容器への紫外線照射のイメージ】
食品容器の殺菌では、複数の容器を一度に殺菌するために、低圧水銀ランプによって容器の上方から紫外線を照射し、容器内部の殺菌を行っています。このとき低圧水銀ランプは破損および水銀飛散の懸念があるため、石英ガラスでカバーする必要があります。
【上から見た照射イメージ】
上の照射イメージに示しているように、LEDは低圧水銀ランプとは異なり、設置個所、点灯個所を細かく調整・選択可能であるため、対象物にのみ紫外線を照射することができます。一方、低圧水銀ランプは全方位に放射するため、個々の容器の隙間やランプの裏側にも、無駄な紫外線が当たっています。
また、低圧水銀ランプは消灯後の再点灯も含め点灯に時間がかかるため、装置が稼働しているあいだは常時点灯させる必要がありますが、LEDは瞬時点灯 / 消灯が可能であるため、照射が必要な時だけ点灯させることができます。
上記内容を考慮し、低圧水銀ランプとLEDを比較した結果を以下の表に示します。
検討結果
【低圧水銀ランプとLEDを比較した結果】
- ※ 投入電力の600W/312Wは、今回の検討例における実際の数値で同等の殺菌効果を得るために必要な投入電力です。
- ※ LEDの発光効率・放射照度は当社UV-LED434Cを用いて当社が測定したものです。
- ※ CO2排出量0.527t/MWhは四国電力(株)が発表した2021年度のCO2排出係数です。
低圧水銀ランプの発光効率は22%であり、LEDの5.4%と比較して高い値を示しておりますが、低圧水銀ランプは照射した紫外線のわずか9%しか利用されないのに対して、LEDの場合は、実に90%を利用することが可能です。そのため、同等の殺菌効果を得るために必要な投入電力は、低圧水銀ランプが600Wであるところ、LEDでは312Wと大幅に削減されました。それに加えてLEDには必要な時だけ点灯させることができるという特徴がありますので、今回のケースでは低圧水銀ランプで1日18時間点灯させるところLEDでは14時間に短縮することができ、それぞれ300日稼働させると仮定しますと、600Wの電力を投入する低圧水銀ランプの電力消費は年間3.2MWh、312Wを投入するLEDは年間1.3MWhの電力消費となり、60%削減することができます。CO2排出量におきましても、電力消費1MWhあたり0.527tのCO2排出量ということをもとに計算しますと、低圧水銀ランプは1年につき1.7tのCO2排出量ですが、LEDは0.69tとなり、同じく60%削減することができるのです。
ロードマップ
まとめ
今回の事例では、必要な場所だけを選択的に照射できることによる光利用効率の高さや、瞬時点灯/消灯が可能なことによる点灯時間の短縮などのLEDの特徴を活かすことによってLED化による大きなメリットを得ることができ、LEDが水銀ランプの代替技術になり得ることを、はっきりと示すことができました。
この例に留まらず、表面殺菌の他の用途や水殺菌、空気殺菌などの様々な殺菌の分野においても、LEDの特長を活かすことができるような設計を、お客様やパートナー様と共に模索し作り上げていくことで、LEDによる低圧水銀ランプの代替を実現し、脱水銀、環境負荷低減に貢献できると考えております。
加えて、ロードマップに示しているとおり、UV-LED自体の性能が近年目覚ましい向上を見せており、環境規制や感染症対策の必要性から来るLEDへの開発期待との相乗効果が、技術開発を加速させています。LEDの特徴を生かす設計を工夫することによって、既に一部で実現しつつあるLEDによる低圧水銀ランプの置き換えですが、UV-LEDの基本性能の目覚ましい向上と相まって、さらに大きな流れとなり、全ての殺菌用途、殺菌分野においてUV-LEDが低圧水銀ランプの当たり前の代替技術として認知され、RoHS指令の適用除外の2027年以降の延長も必要なくなるものと信じています。
当社は引き続きLEDの性能を向上させ、水銀フリー社会や脱炭素社会の実現などの社会問題の解決に取り組んでまいります。
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