2023年6月30日
高輝度青色LEDの量産に向けて
本稿執筆時(2023年)から約30年前、1993年当時のLEDを巡る状況ですが、赤・オレンジ・黄緑色のLEDは既に量産化されており、青色LEDも、異なる基板材料を用いたものが、ごく少量でしたが、既に販売されているものがありました。とはいえ、その当時の青色LEDは、赤や黄緑と比較して明るさが足りず、白色を含めあらゆる色を再現する事ができる光の3原色と呼ばれる赤・緑・青の明るさをバランスよく取れるものではなく、また、寿命も非常に短かったため実用に足るものではなく、日々様々なメーカーや研究機関が、実用的な青色LEDの開発を目指しておりました。1990年代前半、あるいはその前後の時代をご存知の方であればご記憶があるかもしれませんが、例えば、電車の駅に設置されていたLED式の発車標は全て赤・オレンジ・黄緑の単色またはそれらを複数用いた3色表示でした。実用的な青色LEDが無いために、白色やフルカラー表示ができなかったのです。
(現在では赤・緑・青の3原色が揃ったため、フルカラー表示の発車標が増えてきています。)
黄緑・オレンジを用いた駅の発車標
その様な状況で、当社内においては、世界に先駆けて従来よりも約100倍明るく、寿命も長い青色LEDチップの開発に成功しておりましたが、新聞発表に至るまでには、まだまだ越えなければならない高いハードルが存在しました。それは開発に成功した青色LEDチップ(光る素子)ではなく、それを使った青色LEDパッケージ*1での販売を基本方針としたことによります。それまでの当社の主力事業は主に蛍光体や蒸着材、医薬品原料などの化学品。LEDに関連する事業と言えば、赤外LED用の材料やウエハーの製造のみ。LEDパッケージはおろか、電子部品の製造についてもほとんど経験が無かったにも関わらず、新しく開発した青色LEDをパッケージまで仕上げて販売することを基本方針としたのです。新しく世界に先駆けて開発した青色LEDチップのみならず、全く経験のないLEDパッケージの開発および製造。装置の開発や製造ラインの構築など、開発・製造にかかわるあらゆる社員が、暗中模索、試行錯誤を繰り返しながら量産準備を整えていきます。
*1 LEDチップを封止して基板などに実装できるようにしたもの
現在のLEDパッケージ生産主力工場である辰巳工場着工前の写真
2023年時点の辰巳工場航空写真